我が家の遠野の里の物語/荒矢さやか
「荒矢君はおかいこです」
何だそれは?
というのが、正直な感想でした。
それは、遠野小学校1年生の長男の初めての学習発表会まで、あと1か月といったある日のことです。
長男に、何か役をもらえたのか聞くと、
「おれ、おかいこ」
‥‥虫?
もともと学校での話をまるでしない、仕事とプライベートは分けるタイプの彼です。
言葉が足りないところがあるのかも。
と、担任の先生に確認してみたところ、冒頭の言葉です。
まあ、『遠野物語』がテーマのようだし、かいこってのもアリかぁ‥
にしても、長男初めての役が、虫。少々複雑な心境です。
そもそも、遠野の里の物語ってなんなの?
と、先輩ママさんに訊いてみたところ、
●毎年同じ演目で、午前午後、二回公演。
●演技は体育館のフロアで行い、観客はステージから観る。
●観る方も途中入退場禁止。物音禁止。
と、私の知っている学習発表会とはかなり異なる物のようです。
そうこうするうち、いよいよ当日。
当時3歳の次男が騒いだらどうしようと、恐る恐るの観覧が始まりました。
そして、一時間後。
私はなにを、見せられたの?
鳥肌が立ちました。涙が滲みました。
ねえこれって、ホントに学習発表会?

衝撃の体験から、早9年。
我が家の、演者としての遠野の里の物語が、先日終わりました。
おかいこだった長男は、最後にはピアニストを務めました。
ミスタッチが許されない緊張感と、素足で踏むペダルの冷たさ。
次男は2年連続でオイノコ・嵐を演じました。
傷だらけになりながら、馬に蹴られて吹っ飛ぶ演技を繰り返し練習した日々。
それらは、間違いなく彼らの糧となったことでしょう。
もちろん、我が子だけでなく、
全ての子どもたちがそれぞれの役割をとおして、成長したことでしょう。
演者としては終わっても、遠野の里の物語は終わりではありません。
来年度自分の役を受け継ぐ後輩を選び、教える継承活動が、学習発表会後約一か月に渡って行われます。
六年生は継承が行われたのを見届けて、物語を卒業します。
現在、遠野の里の物語は、多くの方々のご協力のもと、10月後半の日曜日、市民センター大ホールで1回公演で行われています。
一小学校の学習発表会を超えて、今や地域の伝統芸能といっても過言ではありません。
と、母は思います。
さて、来年はどんな物語が綴られることでしょうか?
楽しみに待つといたしましょう。
