幻灯の小友町裸参り / 塩谷秋子

小友町では2月の最後の週末に裸参りが行われます。裸参りの日には遠野駅前から無料のシャトルバスが出るので私は毎年そのバスに乗って小友町へ行きます。

昼間には市街で行われる遠野ひなまつりの華やかな雛飾りの数々を見て回ったので、暖房の効いたバスの心地良い揺れにうとうとしてしまいます。バスの急なカーブを感じて目を覚ますと、30分程が経過していて、かつて宿場町だったという独特の二階建ての建物の並びがバスの窓から見下ろせます。バスを降りると夜の帳が落ち切ろうとしています。道路の端に均等に灯りが並べられていて、その並びを目で追っていくと、大きな岩が照明で照らされているのが見えます。岩龍神社の背にそびえ立つこの大きな不動岩は、昇り龍のような窪みがあり、雨が降ると龍のような影が浮かび上がると言われています。

岩龍神社の鳥居から真っ直ぐ伸びる通りは小友銀座と呼ばれていて、今日はお祭りの屋台が並んでいます。たくさんの子供達が右に左に、冬の寒さもなんのそのと駆け抜けていきます。道行く人からの、今年もまた来ているね、という視線を感じつつ、神社の鳥居を目指します。鳥居に辿り着く前に、橋を渡ります。山なりに反った橋を渡ると、橋の両端にしんしんと吊り下げられた提灯の灯りに照らされて光る大きな白い鳥居が現れます。

鳥居の向こうの神社の中では神主が祝詞を唱えています。今のうちにお参りを済ませておかなければいけません。時刻は6時半。裸参りの行列の鐘や太鼓が、遠くで轟き始めています。神社の横の社務所では、甘酒が振舞われ、その反対側には、かがり火が焚かれています。去年は冷え込みも厳しく、雪も降っていて、このかがり火から離れられませんでした。今年は幾分か暖かい、なんて思うのは、甘酒で身体を温めながら行列を見ていれば良い立場の気楽さなのだろうと思います。

辺りはすっかり夜に包まれて、夜の向こうから裸参りの行列がやってきます。一人一人が持つ灯籠の光が、ゆらゆらと連なって通り過ぎていきます。裸参りの行列は、社に向かい合った後に、社の横に回り、不動岩の麓に据えられた御幣に向かって祈りを捧げ、小友銀座へ戻ります。

行列は三度往復されます。終わる頃には7時半にもなろうかという時刻です。行列が終わると、並べられていた足元の灯りもすぐさま片付けられてしまいます。地元の人達はこれから地区センターで直会をするからです。私も帰りのバスの出発時間が迫っています。足元の灯りが片付けられたので、慎重に歩きます。小友銀座の両端には大きな水路があり、水がざぶざぶと流れているはずです。この水路は今でも洗い物などに使われています。農作業のお手伝いで泥だらけになった長靴も手足もこの豊かな水量ですぐにきれいになります。近くには湧き水の汲み場もあります。

私が小友町に来るようになったのは、盛岡に住んでいた頃、材木町よ市に出店していた農家の方から農業体験に誘われた事がきっかけです。田植え、稲刈り、お祭りと、年に何度も小友町に来ます。

来年もまた、小友町の冬の厳粛な夜を見に来ようと思っています。